オークション シュレッダー事件で、日本でも一躍有名人となったバンクシー。
彼の作品は、社会に対する批判精神や平和への祈りが込められ、見る人を惹きつけてやみません。
でも実際にその作品が何を伝えようとしているのか、理解するのが難しい作品も存在します。
描かれた場所や時期などから、様々なメッセージが読み取れるからこそ、人々はバンクシーの作品に夢中になるのかもしれませんね。
こちらのページでは、バンクシーという人物と、彼が作品の込めたメッセージについて考えていきます。
風刺画とは?
そもそも風刺画とは一体何なのでしょう。
一般的に風刺画とは、ある人物や物の特徴を誇張し描くことで、その人物や社会に対する抵抗心・批判精神を表現した絵のことを言います。
もちろん過去には日本を舞台にした風刺画も描かれています。
中でも有名なのが、フランス人画家ジョルジュ・ビゴーの作品です。
当時の日本を取り巻く政治状況について表現した「魚釣り遊び」や「言論統制」などは、歴史の教科書で目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
バンクシーとは?
バンクシーは、イギリスを拠点とする素性不明のアーティスト。
彼の絵は壁面に描かれることが多く、落書きと勘違いされ消されてしまうこともしばしば……
さらに彼は制作中はもちろん、いかなる時も人前に姿を見せることがありません。
そしてごくわずかの人しか、彼が何者なのか知らないというミステリアスな部分も魅力的な存在なのです。
2018年10月ロンドンで開催されたオークションにて、104万2000ポンド(およそ1億5000万円)で作品が落札された直後、シュレッダーで切り刻まれたニュースでも話題となりました。
日本では、2019年1月に東京都でバンクシーの作品が見つかったことが話題となりました。
ただし、公共の場所への落書きである以上、バンクシー本人がこの絵を書いたと認めれば、罪に問われる可能性があります。
本人にこの作品を書いたかどうか問えないとなると、本物かどうか判別することが難しくなります。
その結果、この作品がバンクシーの作品なのかどうか、SNSなどで議論が交わされることとなったのです。
このように、バンクシーについてミステリアスな部分が多いことや、作品が何を意味しているのか個人で感じることが異なるために、たびたび議論を巻き起こしています。
今後も彼の作品と、それに込められたメッセージについて、世界中で話題になっていくことでしょう。
バンクシーの作品のメッセージ考察
ここからは、バンクシーの代表的な作品をいくつかご紹介します。
あなたはこれらの作品から、彼のどんな感情を感じますか……?
Game Changer:医療従事者への感謝
2020年5月7日に発表された、Game Changer。
小さな男の子が看護師を象った人形で遊んでいる絵が、イギリス南部サウサンプトン総合病院に寄贈されました。
まず気になるのが、箱の中にまるで捨てられたかのように入れられたバットマンとスパイダーマンの人形の存在ではないでしょうか。
医療従事者がおもちゃにされ、すぐに飽きてしまう子供に遊ばれているというのは、何やら批判的な意味合いすら感じられます。
中には「メディアや大衆に対する皮肉なのでは?」という見方をする人もいました。
しかし、
・この作品がサウサンプトン総合病院に寄贈されたのが「世界赤十字デー」の前日だったこと
・サウサンプトン総合病院がイギリスで開発中の新型コロナウイルスの感染症向け治療薬の臨床試験を行なっていたこと
から、医療従事者に対する感謝や敬意を描いた作品だと考えられます。
最前線で、コロナウイルス感染症と闘う医療従事者は、私たちにとってバットマンやスパイダーマンを超える存在であるといえるのではないでしょうか。
Slave Labour:奴隷労働

奴隷労働と呼ばれるこちらの作品では、小さな男の子がユニオンジャックの模様が描かれた万国旗をミシンで縫っています。
この絵が描かれたのは、ロンドンのウッドグリーン地区にある「Poundland」という、1点1ポンド均一のお店。
さらに2012年5月に描かれたことから、2012年7月に行われたロンドン・オリンピックと関係があるのではと考えられます。
「オリンピックで使用する記念品などの製作を、低賃金で行わせていた人たちへの抗議的な意味が含まれているのでは?」と言われています。
Shop ‘til You Drop:落ちるまで買い物をする

2011年ロンドンの高級ショッピングビル街に登場したShop ‘til You Drop。
ショッピングカートに商品を入れた女性が、カートを手にしたまま転落する様子が、ビルのかなり高い部分に描かれました。
こんな状況になってもカートを手放そうとしない女性……
つまり大量生産・大量廃棄そして消費主義のこの時代を風刺した作品だと考えられます。
この作品は見た目のインパクトはもちろん、どうやってビルの高い部分に描いたのかということでも大きな話題となりました。
梯子などを使って描いていれば、誰かに目撃されそうなものですが、果たしてどのようにしてバンクシーはこの絵を描いたのでしょうね。
Naked Man:バスルームの窓からぶら下がる裸の男

2006年にイギリス ブリストルのフロッグモア・ストリートに描かれたNaked Manは、イギリス初の合法的なストリートアートとなりました。
グラフィティアートは市議会によって取り締まられ、消されるのが当たり前だった当時のイギリス。
しかし作品を残すかどうかのアンケートを実施すると、97%が残すことに賛成したのです。
この絵は浮気現場からなんとか逃れようとする男性の姿が描かれています。
なんとか必死に持ち堪えてはいますが、今にも転落してしまいそうです。
夫に見つかるのが先か、落ちるのが先か……
そんな想像を膨らませてしまう作品ですよね。
2009年6月22日、ブリストル市美術館とアートギャラリーで開催された「バンクシー対部リトル展覧会」の10日後に、
この作品は複数の人々によりペイントボール(銃を使った青いペイントボール)の発泡で汚されました。
犯人の1人は、当時バンクシーとライバル関係にあり、互いの作品を塗りつぶしあっていたKing Robboという人物が疑われていました。
しかし犯人は特定されてはいません。
Napalm:ナパーム

ミッキーマウスと、ロナルド・マクドナルドに手を引かれる一人の少女。
この少女は、ベトナム戦争で撮影された、アメリカの空爆から逃れる子どもの写真から抜き出されたものです。
アメリカの象徴ともいえる2つのキャラクターに手を引かれる、アメリカの空爆から逃れる子供……
バンクシーはこの作品から、資本主義アメリカに対する皮肉を表現したかったのではないでしょうか。
そこからさらに、反戦や反資本主義を意味する作品だとも考えられます。
Follow Your Dreams:夢は取り消し

アメリカ、ボストンの壁に描かれたこちらの作品。
物悲しい表情でこちらを見つめる作業員の男性の隣には、follow your dreams「夢を追え」と書かれています。
その上から貼られたステッカーにはcancelled「取り消し」の文字が……。
もしかするとこの作業員の男性にも、何か夢を見たことがあったのかもしれません。
彼の何か言いたげな表情は、過去に抱いた夢を諦めなければならなかった日のことを思い出しているのでしょうか。
格差社会の広がりにより、ブルーカラー労働者が夢を抱くことなどできなくなってしまったとバンクシーは伝えたかったのかもしれません。
Girl with Balloon:風船と少女

バンクシーの作品の中で最も有名だといっても過言ではないのが、こちらの赤い風船に手を伸ばす少女の作品です。
初期の作品はロンドンのウォータールー橋やロンドン周辺など、様々な場所に描かれました。
その後もイスラエル西岸地区の分離壁(2005年)、シリア難民危機三周年時(2014年)、イギリス一般選挙時(2017年)などに描かれています。
残念ながらいずれの作品も既に消されてしまっているものの、「イギリス人が好きな芸術作品」で1位になるほどの人気作品なのです。
一見風船に手を伸ばす少女が、物悲しい表情をしているようにも思えます。
2002年にロンドンで描かれた時、そばに「THERE IS ALWAYS HOPE」(希望はいつもある)とのメッセージが添えられていました。
希望を手放してしまったのか、それともこれから希望を手にすべく動き出すのか、見る人によって様々な感じ方のできる作品です。
Love Is In The Air:花束を投げる暴徒

イスラエルの中にあるパレスチナ自治区。
そのガソリンスタンドの壁に描かれたのが「Love Is In The Air 花束を投げる暴徒」です。
紛争の絶えないこの地には、バンクシーの作品が数多く残されています。
ここで描かれたのは、何か投げようとする少年の姿です。
ギャングのような男が手にしているのは、火炎瓶などの危険なものではなく花束です。
暴力での解決ではなく、愛情を持って相手と向き合えば何か変えられるといったメッセージが読み取れます。
この絵を通して、バンクシーは平和を訴えたかったのかもしれませんね。
The Son of a Migrant from Syria:シリア移民の息子

2015年、フランスの難民キャンプのある壁に描かれた「The Son of a Migrant from Syria シリア移民の息子」
この顔に見覚えのある方も多いのではないでしょうか。
こちらの作品は、あのアップルを立ち上げたスティーブ・ジョブズがマッキントッシュ・コンピュータと荷物を持っている姿が描かれたものです。
イギリスへの入国を試みた移民が住んでいるフランスの難民キャンプに、かつて留学移民としてアメリカに滞在していたシリア移民の息子のスティーブ・ジョブズを描いたのです。
もし移民であったジョブズの父親を受け入れなければ、彼という存在はもちろんアップルという世界的な企業も誕生しなかったでしょう。
つまりバンクシー はこの作品によって、移民や難民という存在に理解を示して欲しいと訴えたかったのだろうと言われています。
Armored Dove of Peace:狙われた鳩

「Love Is In The Air 花束を投げる暴徒」と同様に、パレスチナ自治区に描かれた有名な作品「Armored Dove of Peace 狙われた鳩」
オリーブを咥え、防弾チョッキを身につけているのは、平和の象徴であるはずの鳩です。
さらにその鳩が、銃口を向けられている様子が描かれています。
この絵が、イスラエル軍の見張り塔に向かって描かれていることから、バンクシーはきっと平和を訴えたいのだろうと推測されます。
実際にこの絵の周辺にも、銃弾が撃ち込まれた跡が残されており、まだまだ平和への道のりは遠いのかもしれません。
しかしいつの日か、バンクシーがこの絵に込めた平和への祈りが届く日が来ることを、私も願っています。
まとめ
以上、バンクシーの作品と魅力についてご紹介しました。
アートの世界って本当に奥深いなと感じさせられましたね。
「もしかするとこんなことが伝えたかったのでは?」なんて考えながら見てみると、また一味違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。
なお、バンクシーの作品は、以下の期間中日本でも見られます!
詳しくはこちらの公式サイトをチェックしてみてくださいね♪
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